特集・コラム

バンド・サウンド向上委員会 episode 3(3ページ目)

歌が良くなると、バンドも良くなる!
~「バランスの取れたサウンドを目指せ!」の巻~

歌が良くなると、バンドも良くなる!

~「バランスの取れたサウンドを目指せ!」の巻~

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chapter 4
毎度おなじみグライコです

次に行われたのは、恒例の“グライコ前後聴き比べ”です。

「陸上部が石ころだらけのグラウンドでいくら練習しても、速く走れるようにはならないですよね。それと同じこと。グライコでメイン・スピーカーの音を作るのは、いわば石を取り除く作業です。これをやらないと、いくらマイクの音だけ変えても良くはなりません」

もし、“グライコ”が何のことだかわからないという方は、前号前々号のバンド・サウンド向上委員会をお読みいただきたいのですが、一応、ここでも簡単に説明しておきましょう。

グライコは“グラフィック・イコライザー”の略

イコライザーとは低域や中域、高域などの音量を個別に調節できるエフェクター

PA機材をセッティングしたら、最初にいつも聞いている音楽をメイン・スピーカーから流して、その音が“いつも通りの良い音”になるようにグライコで調節することが大切。これがすべての音の土台となる

さて、今回使用したグライコはこれまでとはタイプが異なります。前回&前々回ではミキサーに内蔵されたグライコを使用していました。しかし、横浜清陵高校の軽音楽部は、この取材のためにわざわざ下の写真のグライコ専用機、dbx 2315を用意してくださっていたのです!

keion_v3_band_05.jpg

前回までのグライコと比べてみてください。スライダーの数が多いですね。それだけ細かく周波数帯域を調節できるというわけです。詳しく言うと、上下にスライダーが31本ずつ付いています。プロが使うグライコもたいていこのスライダーの数です。紅谷さんはリファレンス曲を流しながら、慣れた手つきでサクサクとスライダーを動かしていきます。

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chapter 5
グライコをオン/オフしてみます

グライコの調整は10分ほどで終了。ここで紅谷さんは部員の皆さんが、どれくらい音の違いを聴き分けることができるのかという実験を提案されました。

「これから曲を流しながらグライコをオン/オフするので、オンになったと思ったら手を挙げてください」

keion_v3_band_07.jpg

もちろん、紅谷さんの手元は部員の皆さんには見えません。しかし、実際やってみると、ほとんどの部員の方がオンのときに手を挙げるという結果になりました。

「では、どんなふうに違ったか教えてもらえますか?」と紅谷さん。これに対して部員の方からは、

「低音系のリズムが少し抑えられ、その分、高音がすごく出てきた」
「こもっていた音が広がったように聴こえた」

という的確な指摘が!

「全くその通りですね。まず覚えていただきたいのは、このグライコの調整に理論は要らないということ。良い音になればいいんです。私は高域がしっかり出ている音が好みなので、そういうサウンドに調整しています。というのも、高い音は空間の“広さ”を表現するときに欠かせない要素だからです。試しに、どんな部屋でもいいので手を“パンッ”とたたいてみてください。そうすると“パン”の後に“ゥワン”という感じの“残響”を感じることができると思います。この残響の長さや音質で人間は部屋の広さを感じるんですね」

 例えば、ウワーンという長い残響を聴くと、その部屋を実際に見ていなくても、「ああ、広いホールなんだな」とか、「洞窟かな?トンネルかな?」と思うかもしれません。いずれにしろ4畳半の部屋は想像しないと思います。

「楽器を録音するときには残響も確実に録るために、マイクの立て方を工夫したりします。そうして録った音を2本のスピーカーで鳴らすと、まるでそこに演奏者がいるような音にできるんです。この残響をスピーカーで忠実に再現するには、高い音をしっかり出せる状態にしておく必要があります。ただPAにおいて難しいのは、高い音はハウリングの原因にもなりやすいということです」

ハウリングについては前回の“episode 2”を参照していただきたいのですが、簡単に言えばスピーカーの音をマイクが拾うことで起きる“キーン”というノイズのことです。高い音を出しつつも、ハウリングは防ぐ、そのためにグライコには細かく周波数帯域を調節できるようにスライダーがたくさん付いているのです。

では、どのような設定になっているのでしょう? 下の写真を見てください。

(下の画像はクリックで拡大します)

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「右側がちょっと上がり気味です。これは高音をちょっと足している感じですね。真ん中辺りはデコボコしてますけど、左にいくほど全体的に下がっていますね。これは低音のゴワゴワしたところをカットしていって、鮮明に聴こえるように調整した結果です」

chapter 6
再度、Chups:)に演奏してもらいました

グライコの効果を実感したところで、再度、Chups:)の皆さんに演奏してもらいました。

その途中にも紅谷さんにグライコをオン/オフしてもらったのですが、ボーカルの土屋優海さんは、その変化をまざまざと感じていた様子で、「歌っていて、声が抜けて聴きやすいときと、こもってて聴こえづらいときがありました!」とのこと。また、観客の部員の1人からは「スネアがよく聴こえるようになった」との声も。

「はい、今の演奏ではスネアの“カン”という音と、バスドラムの“ドン”という音をミキサーのEQで目立たせました」

そういえば、すっかり忘れていたのですが、今回、ミキサーにはスネアとバスドラムに立てたマイクも接続していたのでした。

keion_v3_band_09.jpg keion_v3_band_10.jpg

でも最初にChups:)が演奏したとき、それらの音はメイン・スピーカーから出していなかったそうです。

「最初のようにこもった音の状態で、バスドラムのような低音の音量を上げると、さらにこもってしまいます。そしてバスドラムを出していない以上、スネアだけ上げてもドラムとしてのバランスが崩れてしまうので、最初は何もしなかったんです。でもグライコ調整後はバンド全体の低域に余裕が生まれました。なので、バスドラムの音量を上げることができ、それに合わせてスネアの音量も上げられたんです。ベースは何もしていないのですが、もともと大きめだったので、バンド全体で気持ちよいバランスにすることができたと思います」

では、ここまでの流れをまとめてみましょう。

①グライコで高域を上げて低域をカット
②声がより聴こえるようになる
③低域を上げる余裕が生まれる
④バスドラムを上げる
⑤もともと大きかったベースとの相乗効果で迫力が生まれる
⑥バスドラムとバランスを取るためにスネアも音量アップ

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band_beniya.jpg【バンド・サウンド向上委員会 委員長】
紅谷亮次さん

ソウルでポップなバンド、Wabi_Sabiのベーシスト/DJをメインに活躍される一方で、レコーディング、ミックス、そしてPAまで手がけるエンジニアとしてもマルチに活動中。Glenn Music(グレンミュージック)代表。

Wabi_Sabi:http://wabisabi.dip.jp/
Glenn Music:http://www.glennmusic.jp.net/

『軽音マガジン 2017 Vol.3』 トップ・ページへ