ホーム > 特集・コラム > 世の中に楽器がある限り、リペアというのは絶対に必要な仕事
三井裕二さん(BIG BOSSお茶の水駅前店 リペア担当) インタビュー
■ESPギタークラフト・アカデミー(以下GCA)に入学したいきさつは?
□小さい頃から工作が好きだったんです。とは言っても、こういう世界に進むことはほとんど考えてなかったんですけど、大学時代に “自分が本当にやりたいことって何だろう ”と考え始めて、一番興味があったのが、中高生の頃に弾いていたギターでした。それで大学を中退してGCAに入学したんです。よく読んでいた音楽雑誌の広告で、一番目についたのが GCAだったのと、ギター・メーカーがやっている学校だという信頼感もありました。
■入学したときの印象は?
□この道を目指す人がこんなにいるんだ!ってビックリしました(笑)。年齢層も幅広く、中には脱サラした人もいて、本気でやっているという空気を感じましたね。自分も大学を辞めて入学したので、ここに入るなら就職を決めなきゃって、ずっと意識していました。
■木工好きの経験は活かされましたか?
□アイディア面ではあったかもしれませんけど、知識や技術に関しては、全部まっさらの状態から教わるつもりで学びました。あとは、周りの生徒から受ける刺激も大きかったですね。自分とは全然違う視点でギターを見ていたりするところなど、とても勉強になりました。
■今の職業にはどのように?
□ GCAに 2年通って、まず ESPの工場に勤めました。その後、今の店で販売の仕事をしたり、 GCAで 1年間講師をやったりして、ここでリペアを担当するようになったのは 7年くらい前からです。“リペアマンも最初は接客からだよ ”と言われて、当時はよく理解できなかったんですけど、実際にリペアの仕事を始めてから、その意味がよくわかりました。お客さんとしっかり話ができないと、いくら技術があっても良いリペアマンにはなれないなって。講師をやったことも含めて、すべてが今の仕事に役立つ貴重な経験だったと思います。
■では、在学時代に学んだことはどんなふうに役立っていると感じますか?
□ 1年目で基本的なことを学び、 2年目はリペア&カスタマイズコースで本格的な修理のことを学んできて思うのは、楽器の直し方って本当に独特だということ。普通だったら接着剤を使えばいいと思うようなところも、木に悪い影響を与えないようにニカワを使ったり。そういう昔ながらの方法が楽器には一番適しているんですよね。楽器を単なる “物 ”として見ると、ただの木にパーツを付けただけのようなものですけど、実はすごく繊細なんだということを、学校ではいつも感じていました。
■リペアという仕事の醍醐味は?
□修理するのは予想外の箇所であることが多いし、改造もお客様から持ち込まれるアイディアがほとんど。つまり、 1つ 1つの仕事がマニュアルにはないぶっつけ本番なんです。最初はそれが難しくて辛かったこともありましたけど、クラフトの知識だけでは追いつかない部分も多いのでいろいろ勉強して、そこからさらにのめり込んでいく。それでお客様の楽器をうまく直せたり、良い改造ができて喜んでもらえると、自分も一緒に嬉しかったりして、そういうことの積み重ねで、だんだん楽しくなってきたというのが正直なところですね。
■ここにはプロ・ミュージシャンが楽器を持ち込むこともあるんですよね?
□そうですね。もともとお店のお客さんだった人が CDデビューしたというパターンもありますし、逆に、本当に初めて楽器を買った人もいますし、幅広いです。そういう意味では、楽器が世の中にある限り、リペアは絶対必要な仕事なんだなと思いますね。
■これからリペアマンを目指す人に何かアドバイスできることはありますか?
□最初から目指す道がはっきり決まっている人って、なかなかいないと思うんです。 GCAにいた頃のことを思い出してみても、特に十代の生徒の中には、少し興味があるとか、ちょっとやってみたいという感じで入ってきた人もいました。でも、そういうのがきっかけとしては一番大事で、実際にやっているうちに少しずつ気持ちが定まっていく。だから、チャレンジできる機会があるならぜひ進んでほしいです。そもそもこういう世界は、教えてもらわないとわからないことがたくさんあるし、工具なども必要になるので、専門学校で学ぶというのは最高の窓口だと思います。
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