ホーム > 特集・コラム > いかに自分を出すか、表現するかってことを常に考えています(山中綾華)/“あいつ、いつもアレ叩くよな”そう言われるようになったら“勝ち”ですね(ピエール中野)
ピエール中野(凛として時雨)×山中綾華(Mrs.GREEN APPLE)
特別対談インタビュー!
■おふたりは今回が初対面ということですが、お互いの演奏にはどんな印象を持っていますか?
中野 ミセス(Mrs. GREEN APPLEの略称)の楽曲を聴いて、基礎がしっかり備わってるなって思ってました。リズムのバリエーションは幅広いし、ドラミングも安定してる。この若さでこんなドラム叩けるんだ!って感心しましたよ。
山中 ありがとうございます(笑)。私は一度、カオティック・スピードキングさんのライブを観たことがあるんですが、ピエールさんのドラムがもう、何をやってるのかぜんぜんわからなくて。
中野 あはははは!
山中 大きいリズムの中でものすごく細かいことをたくさん、しかも正確にやっていて、それがきちんと波になって聴こえるっていうのがものすごいことだなと思いました。自分には手の届かない存在です。
中野 山中さんは迷いのないドラムを叩いているから、きっと確固たるものがある人なんだろうと思いますよ。こういう音が出したい、こういうことがしたいっていう。
山中 あ、それはあるかもしれないです。バンドを組んだときから人前でやっていきたいという思いが強くあって、どんどんチャンスが増えていく中でも、いかに自分を出すか、表現するかってことを常に考えている感じです。
中野 女性ドラマーはどちらかというとしっかりしたリズムで丁寧に叩く人が多いんですけど、山中さんはドライブさせるドラムと優しいドラムの両方のアプローチができていて、新しいタイプが出てきた!と驚きました。フレーズは誰が考えているの?
山中 ものすごく特徴的な部分では、ボーカル/ギターの大森(元貴)が作っているものもあります。
中野 やっぱりそうなんだ! ドラマーってわりと既成概念があるから、ドラマーらしからぬアプローチだったり特殊なフレーズを打ち出してるバンドは、曲を作ってるメンバーが“こういうの叩ける?”って案を出していたりするんですよね。時雨(凛として時雨)もそうです。でもそういう案を自分のモノとして表現するには、かなりの技術が必要になるんですよ。
■ふたりは、ドラム以外の楽器経験はありますか?
山中 小さい頃、ピアノを習っていました。なので譜面やリズムにはわりと強いほうかもしれないです。ピアノも四肢をバラバラに動かすので、初めてドラムで8ビートを叩いたときにピアノと似ていると思いました。
中野 それならタッチによる音の違いもわかるでしょう? タッチによって音を変えている?
山中 はい。
中野 同じクローズ・ハイハットでも、譜面上の表記はひとつだけど、タッチによってまったく印象が変わるからね。そうか、ピアノやってたから、そういうことをわかっているドラムを叩けるんだ。僕はもともとギターを弾いてたので、ギターのリフに対するドラムのアプローチなどは得意なほうですね。ギターとシンバルの音やアタックの関係は、バンド・サウンドにおいて重要な要素になっているんですけど、そのあたりの感触や感覚は身についています。
■尚美ミュージックカレッジ専門学校(以下、SHOBI)でドラムを学んでいますが、その経験はどんなところに生きていると感じますか?
山中 私はもともと独学でやっていたので、両手のばらつきがすごかったし、リズムも一定のパターンしか知らなかったんです。だからSHOBIで学んだことをすべてバンドに反映させていました。例えばドラムとベースだけで曲を表現することを学ぶアンサンブルの授業などは、今の活動にすごく生きていますね。リズム隊だけでグルーヴを出すのってけっこう難しいので、この授業を経験できたことは大きかったです。わかりやすいアプローチというものも考えさせられましたし。
中野 バンド・アンサンブルにおけるアプローチは、授業で学ぶのがとても重要だと思います。指導者がいるほうが圧倒的に上達が速いんですよ。僕は高校1年からドラム・レッスンを受けていて、ひたすら基礎練習をしてました。並行してバンドもたくさん組んで、実践的な技術も身につけていって。ある程度の基礎は備わっていたので、SHOBIではいきなり飛躍した練習メニューを与えられたり、ラテンなど幅広いリズムを叩かされたりしたんです。そういうのは、東京という音楽の最先端の地で現場に密着した教育をしている場所でないと得られないことだったろうと思いますね。ここで身についたテクニックが、自分のドラミングにしっかり反映されています。
■独学でプロを目指すというのは難しいのでしょうか?
中野 もし独学である程度の実力をつけられたとしても、プロになってから苦労することが多いかもしれないですよね。プロの現場では、やりとりはすべて譜面だし、要求されるジャンルやリズムの幅も広い。それにすぐ対応できないと次は呼ばれなくなるという厳しい世界なので、音楽の基礎知識を身につけてパターンの引き出しを増やしておくことは必須だと思います。そういった意味でも学校で学ぶほうが確実だと思いますね。
■専門学校の在籍期間は、基本的に2年間。その短い時間をどんな姿勢で臨んだら、より有意義に過ごせると思いますか?
山中 1年目で基礎をどれだけ身につけられるかで、2年目の授業の受け方が変わってくると思うので、とにかく授業は真面目に、真剣に取り組むことをおすすめします。私が心がけていたのは、先生からのアドバイスは自分に対することでも人に対することでも全部吸収してしまおうということです。そうすれば、授業が倍、濃いものになる。
中野 それは素晴らしい考え方だね。基礎練習は楽しかった?
山中 正直、つらいときもありました(笑)。でも楽しむほうが自分のためになる、と思ってやってましたね。
中野 基礎練習って、ストイックにやろうとすればするほどつらいんですよ。だからその人のモチベーションで身につき方が大きく変わってくる。
■なるほど。そうなると目指すものがあったうえで取り組むことが大切ですね。
中野 そうです。学校に入ったからといってプロになれるわけじゃないですから、積極的に学んでいく姿勢が大事ですよね。山中さんはどうでした?
山中 わりと積極的だったと思います。チャレンジ精神だけはありました(笑)。
中野 そう、それが一番必要。やってみないと自分に向いているのか向いていないのかもわからないわけですから、何でも積極的にやったほうがいい。そう言うと、若い子たちは“やってるよ”って思うんですけど、もっともっとできる(笑)。
山中 私、卒業してまだ1年ですが、すでにそう思ってます(笑)。授業でももっとできただろうし、もっと参加しておけばよかったなって。
中野 それはいい速度感だね。速度感も大事ですよ。そういうことを速く処理できる人が伸びていくし、いろんな世界で活躍できるんだと思う。
■では、これからの時代のミュージシャンに求められる資質とは?
中野 僕の世代では、どの現場でも、基礎がしっかりしていて、あの人に頼まないとああいう音にならないっていうミュージシャンが引っ張りだこですね。山中さん世代ではどう?
山中 同じですね。やっぱり、その人にしか出せない音を持っている人は強いです。
■そういった個性を確立するにはどんな努力が必要だと思いますか?
山中 耳コピも重要ですが、決まったフレーズを叩いているだけではなかなか難しいと思いますね。SHOBIの授業で、決まった尺の中で好きなように展開するっていう課題を経験しましたが、応用することを考えるし、個性も作れるし、仲間のプレイを聴いてそこから吸収するものも多かったので、そういう練習が近道なのかな、と思います。
中野 そういった経験が自分の好きなフレーズを自覚することにつながるし、それを極めていけば強烈な個性になっていったりもします。“あいつ、いつもアレ叩くよな”って言われる。でもそうなればみんなは同じフレーズを避ける。そうなったらもう勝ちですよ。僕はそうやってピエール中野らしいと言われるものを確立してきたつもりです。
山中 私も将来的にはいろいろなアーティストのレコーディングなどに参加していきたいと思っているので、“この人のドラムがほしい”と言ってもらえるように、自分にしか出せないモノを作り上げていきたいですね。
■最後に、今後の展望をお聞かせください。
山中 ミセスをもっと多くの人に知ってもらいたいし、もっともっと大きいところで演奏したい。それを目標に、いつまでも初心を忘れずに頑張りたいです。
中野 僕は先日、香港と台湾でドラムクリニックをやってきて、日本のカルチャーが今、海外で求められていることを実感しました。もっと視野を広げて世界に届けられるようなドラマーになりたいという思いを改めて持ちましたし、日本のアイドルやバンドなどが世界に果敢に挑戦している中で、自分もそういうスタンスでいないといけないなと強く思いました。そこをより明確にした活動を行っていきます。
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