ホーム > 特集・コラム > 世に出す楽器を作りたいのであれば、絶対に学校で学んだほうがいい
村吉涼秀(リペアマン/ギター製作家
D.N.S -Draw a New Sound- 代表)インタビュー
■ESP ギタークラフト・アカデミー(GCA)に入学したいきさつを教えてください。
僕は沖縄出身で、高校2 年のときにギターを始めたんですが、興味対象が変わっていたというか。ギターを弾くのは楽しかったんですけど、それとは別に“ なんで音が出るんだろう” というところが気になったんですね。それでギターの裏ブタを開けてみたら、自分でも作れそうだと思ってしまったんです。さらに大きなきっかけは高校の美術の授業で、自由作品としてギターを作ったこと。近所のリサイクルショップでジャンク品のストラトを買ってきて、それを参考にボディを作って組み上げたんです。それがすごく楽しくて、こういうことをやれる場がないかと思っているときにESP にギター製作の学校があることを知りました。その時点でギター作りやリペアの店を構えたいと思ったんです。
■では、卒業後すぐ上京してGCA に?
いえ、すぐではないです。親に反対されたというか、その道に進むことは認めるけど、学費は自分で用意しなさいと。それで高校に行きながらバイトして、卒業後も沖縄で就職してお金を貯めたんです。結局、卒業して3 年……高校時代のバイトも含めたら5年ぐらい働いて、21歳で上京して入学しました。
■入学当初の印象はどうでした?
まず度肝を抜かれたというか、思ってた以上にプロ指向で驚きました。生半可ではいかないと思いましたし、最初はうまくいかないことばかりであきらめそうになることもありました。先生方の技術もすごすぎて、“ この人たちのようになれるだろうか? ”っていう大きな壁でした。心が折れそうになるけど、でも頑張る……その繰り返しでした。
■そこからどのようにして、自分の技術に自信がついていきましたか?
ギタークラフトに重要なのは経験で、何本も作って自分のやり方を磨く必要がある。だから、学校時代は誰よりも多く作るようにしていました。その積み重ねが少しずつ大きくなり、完成度が高まっていく。考えるよりも実際にやって試行錯誤して、失敗するからこそ次は失敗しない。経験は必ず生きますからね。正直に言うと、入学した当初は自分には無理かもしれないとも思ったんです。想像以上に難しいし、甘かったなと。結局、僕は3年間通いましたけど、2年目までは“ 自分で店を出す”っていう夢に自信が持てていませんでした。3年目にしてようやく、開業に向けて前向きになれましたね。
■卒業してすぐお店を始めたんですか?
いえ。店を構えるにしてもお金も場所もないし、どうすればできるだろうと悩んだんですけど、考えてみれば場所なんてあるじゃないかと。つまり、自分の住んでるところを自宅兼工房にすればいい(笑)。工具はひととおりあるにしても、最初は机ひとつだけのスタートでしたよ。そうやってまず自宅でリペア・ショップを始めました。
■そしてこの4 月、ついに店舗としてD.N.S をオープンするに至ったと。
はい。基本的にはリペア・ショップですけど、従来と違うこともしたくて、ギター製作もできるように工作機械を1時間単位で貸し出すサービスもやっています。ちなみに“Draw a New Sound” というのは僕が考えたものではなく、GCAの同級生が以前やっていた店の名前なんです。でも、その人は事情があって仕事を続けられなくなってしまい、僕が引き継がせていただきました。その人とは仲が良かったのと同時に良きライバルでもあって、一緒に仕事をしたかったんですけどね。
■最後に、GCAへの入学を考えている読者にアドバイスをください。
ギター製作をやりたいという気持ちに正直になること、そして負けないことですね。学校に来なければわからないことはたくさんありますし、世に出す楽器を作りたいのであれば絶対に学校で学んだほうがいい。プロのミュージシャンのために楽器を作ったり、リペアをしたりもするわけですから、やっぱり独学では難しいですよ。厳しい道のりですが、理屈ではなく、好きであれば頑張れる。そしてお客様の要望に応えて喜んでいただけるとすごく嬉しいし、やり甲斐はありますよ。
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