ホーム > 特集・コラム > 注目の大阪音大ミュージッククリエーション専攻講師陣による特別鼎談 ── 音楽を仕事にするために
渡邊崇、足立知謙、徳永暁人
■ミュージッククリエーション専攻のコンセプトを教えてください。
渡邊 第一の教育指針は“職業作曲家”の育成です。2016年度に開設したばかりですが、早くも手応えを感じていますよ。というのは、この専攻で我々と近い文脈で語れる作曲家を育てていくことで、ここを拠点としたチームで世界に打って出ることもできるんじゃないかという道筋も見えてきたんです。つまり、この専攻が会派のようなものに発展し、音楽の工房のような場にもなり得ると。
徳永 要は近大マグロ(近畿大学の研究所によってマグロの完全養殖が実現したこと)みたいな研究チームですね。今の時代、基本的な知識や理論は本やインターネットでも学べるわけで、この専攻はそれに留まらない、もっと踏み込んだ研究チームの音楽版というか。先生と学生が一緒に作品を作るラボのようなスタイルで社会に貢献していきたいんです。
足立 それと、音楽家としての可能性を広げる場でありたいですね。今は音楽家といっても十人十色、百人百色なんですよ。これまでの音楽の在り方はIT系メディアの登場で激変し、そこに今後の音楽家がどういうふうに新しいものを打ち立てるかが問われています。そのためには多様な音楽に触れるだけでなく、哲学や経営学なども交えて音楽家としての可能性を広げるべきなんです。同じく2016年度新設のミュージックコミュニケーション専攻とも連携しながら、世界規模のスケールを持つ人材を育てたいですね。
■音楽の研究チームとして、在学中から実社会と関わる機会もあると?
徳永 医学や化学の分野では大学生がどんどん社会に貢献しているわけで、音楽でもそれができると思うんですよ。
足立 企業とのコラボレーションに関していうと、卒業してからのコラボは絶対に失敗できない仕事になりますが、大阪音大のチームで何かを手がける場合、我々講師がセーフティネットになるわけです。プロジェクトとしては必ず成功させますが、産学連携の強みとして、研究過程では“失敗も経験できる”と。そうした機会を大切にして、できる学生にはどんどんチャンスを与えたいですね。
■映画・CM・ゲーム・ポピュラー音楽など、さまざまな音楽の作曲技法を学べる点も特徴的ですね。
渡邊 それはやはり、アーティストというより職業作曲家の育成をうたっているからです。仕事として作曲していくためには、どんなジャンルにも対応できないといけない。いろんな音楽を知っていることでアレンジの幅も広がりますし、実際のところ、プロになれば得意とする分野以外の仕事の依頼も来ますから。
徳永 それに、結局はすべてがリンクするんですよ。映画音楽の仕事でも“60年代ロック風にお願いします”ってこともあれば、歌モノでも“イントロは映画のワンシーンみたいに”とかって要望されることもある。CMなんてその最たるもので、どのジャンルからどんなオーダーが来るかもわからない(笑)。
足立 “ベーシック・コンポジション”など、クラシックの作曲法を学ぶ授業があるのも音大ならではですよ。作曲の基本はコード・プログレッションと和声が中心ですが、そこにクラシックの対位法的アプローチを取り入れたりすることで、曲作りの幅は格段に広がります。
■ずばり、ここで方法論を学べば“音楽を職業にする”ことは可能ですか?
渡邊 音楽にはセンスや感性も大切ですが、実はセンスがあってもどこに向けてどんな努力をすればいいかわからずに失敗してしまう人はすごく多いです。少なくとも我々はどこに進めばいいかわかっているので、進むべき方向を明確に指し示すことができます。そして、そこに向かってしっかり学べば、音楽を職業にすることはできると思いますよ。
徳永 歌モノに関していうと、実はセンスだけでも曲は作れます。でも方法論を持っていないと、10曲も書いたらアイディアは出尽くすんじゃないかな。作曲を仕事にする以上、何十年も音楽を作り続けられなきゃいけないわけで、技術や知識はそのためのガソリンみたいなものです。そこをきちんと学び、常に蓄積しておけば充分に職業になり得ます。もちろん努力も必要ですけどね。
足立 正直、職業作曲家としての体力・知力、そして学び続ける力が必要なのは事実です。つまりプロになれるのは探求熱心な人だけだし、プロであり続けている人は努力もし続けていることは知っておくべきですね。ここで教えている我々も、みんな悩んだり、足掻いたりしながらプロとしてやってますから(笑)。
渡邊 そのとおりですね。ここで学ぶ中で、我々のそういうリアルな姿を見ることにも大きな意味があると思いますよ。
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